専門家コラムColumn

Season1「チャットBot」編(2)チャットBotの種類とそれぞれの特徴について

2019.09.26

前回(Season1第1回)は、『コンタクトセンターでのお客様対応の自動化はどのように進むのか』というテーマについて筆者の見解を述べた。その内容を簡単に振り返ってみよう。前稿では、お客様対応の自動化は「チャットBot」と呼ばれるチャット形式での自動応答システムの普及によって本格化していくだろうという筆者の見解を説明した。

faq0920.pngのサムネイル画像のサムネイル画像「AIブーム」の後押しもあってか、お客様や社内の問い合わせ対応にチャットBotを導入する企業が増えている。チャットBotに関して、Bot(=ロボット)という言葉の印象から、問い合わせへの回答を自動的に学習したり、Googleなどを検索して答えを見つけ出したりするものとイメージしている人も多いようである。確かにそのような機能を持つ『機械学習型』と呼ばれるチャットBotも存在する。しかし、非常に高価であることなどから導入している企業は少ない。予め登録されたFAQ(Frequently Asked Question=想定質問と回答の組み合わせ)の中からAI(?)が回答を選択して質問者に提示する『ルールベース型』と呼ばれるチャットBotを導入している企業が大半である。前稿では、チャットBotには大別して『機械学習型』と『ルールベース型』という二つのタイプがあることを説明し、それぞれの特性について簡単に触れた。第3回目の本稿では、それぞれのタイプの機能や特性、活用状況などについてもう少し詳しく説明していくことにしたい。

『機械学習型』のチャットBotについて

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 『機械学習型』のチャットBotは、決められた応答しかできない『ルールベース型』とは違い、人工知能(AI)により会話ログを自動的に解析・学習し、正答率や会話の精度を上げていくというものである。「人工知能型」とも呼ばれる。しかし、『ルールベース型』と比べて価格が高い(10倍~100倍)。また、人と人が自然に会話するような精度まで高めるには、膨大な学習データの投入が必要となる。誤学習により誤った回答や不適切な会話を行なうリスクもある。

 

『ルールベース型』のチャットBotについて

 人が予め登録した「質問と回答の組み合わせ」、「質問のシナリオと回答」から応答を行う形式のもの。人工知能を搭載していないものが大半であるため、『機械学習型』が「人工知能型」と呼ばれるのに対し、「人口無能型」と呼ばれこともある。 『機械学習型』と比べて構築・運用コストが安価であり、最近では月額2~3万円程度のシステム利用料で活用できるものもある。

しかし、ユーザーからの質問に対し、予め登録したプログラムどおりにしか応答することができないため、構築の際に想定される質問と回答をすべて登録しておく必要がある。

 『ルールベース型』のチャットBotの中でも、ユーザーが入力する質問文の意味を解釈する機能に人工知能の技術を用いているものもある。このタイプは、チャットBotが行なった回答に対し「正しかった」、「間違っていた」といった結果をフィードバックすることにより、AIが学習して質問文の解釈力を高めていくという機能を備えている。

 

『機械学習型』と『ルールベース型』の活用状況について

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冒頭の前稿の振り返りの部分でも述べたが、現在、企業のお客様対応や社内のヘルプデスク対応などで活用されているチャットBotの大半は『ルールベース型』である。その背景について、筆者なりの解釈を説明したい。前段で述べたように、『ルールベース型』は、ユーザーからの質問に対して予め登録したプロ

グラムどおりにしか応答することができない。そのため、構築の際に想定される質問と回答をすべて登録しておく必要がある。このことから『ルールベース型』は、構築の際に手間が掛かるという評価もある。しかし、『機械学習型』のチャットBotも、人と人が自然に会話するような精度まで高めるには膨大な学習データの投入が必要となる。

本ブログのSeason1第1回(前稿)で、MicrosoftのチャットBot「Tay」に関するアクシデントを紹介した。誤った機械学習により、チャットBotが不適切な発言を行なうようになったというエピソードである。それが教訓となった面もあり、機械学習型チャットBotには、「AIがインターネットやSNS上にある情報から自動で学習する」という方法での機械学習は行なわれていない。誤学習のリスクを考慮し、企業側で一件ずつ精査して「正しい情報だ」と確認されたデータしか学習させていない。インターネット上などに存在する膨大なデータを学習させ、どんどん賢く成長させていくところにAI活用の意義がある訳だが、現段階ではそのような学習方法は回避されている。そのため、『ルールベース型』のチャットBotと回答能力の面で大差がないというのが現状である。

前述のように、『機械学習型』のチャットBotは『ルールベース型』と比べてコストが10倍から100倍である。しかし、現行の機械学習の手法では回答能力はほぼ同等であり、学習用(FAQ)データの整備にも手間か掛かることから、コストパフォーマンスが悪いという評価が一般的だ。従って、『機械学習型』のチャットBotは、投資体力がある一部の大企業が実証実験的に活用しているのみである。
これが、チャットBotを導入している企業の大半が『ルールベース型』を採用している背景である。

『ルールベース型』のチャットBotにも2つのタイプがある

『ルールベース型』のチャットBotにも、2つのタイプがある。

chatbot0919.pngのサムネイル画像『一問一答型』と『シナリオ型』という2つのタイプである。簡単に説明すると、『一問一答型』は、ユーザーが質問文を入力し、それに対してチャットBotが回答を提示するタイプである。『シナリオ型』は、ユーザーが質問内容を直接入力するのではなく、チャットBot側が質問のジャンルや内容を「選択肢」の形式で提示し、ユーザーがそれを選んでいく形式のものである。

次回は、『一問一答型』『シナリオ型』それぞれの特性や活用用途などについてもう少し詳しく説明することにしたい。
 

 

 

AIにより企業とお客様とのコミュニケーションはどう変わっていくか

西脇 紀男 Norio Nishiwaki

1993年大手コールセンターベンダーに入社。経営企画、営業企画、CRMコンサルティング部門の部門長を務める。
2010年キューアンドエーグループに入社。経営企画、マーケティングソリューション事業などの部門長を経て、2017年から2019年はコンタクトセンター事業でのAI活用を推進するAI事業戦略本部の本部長に。
現職でも引き続き、AI活用やオムニチャネル対応など次世代型コンタクトセンターのモデル構築、事業化に取り組んでいる。
立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科修了 経営管理学修士(MBA)

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