専門家コラムColumn

Season1「チャットBot」編(4)チャットBotで対応できること・できないこと

2019.12.11

 前回前々回(Season1第3回と第2回)は、チャットBotの種類とそれぞれの特徴や適した用途について解説した。
 その中で、チャットBotは、AIが自動で何でも回答してくれる「魔法の箱」ではなく、あくまでも「予め登録されたFAQ(想定質問と回答の組み合わせ)の中からしか質疑応答ができない」ということを説明した。
 本稿では、その前提を踏まえ、どのような問い合わせがチャットBotによって自動化できるのか、あるいは自動化できないのかということを整理していきたい。

「自動化」の観点から見たお客様対応の分類

 前述のように、現在販売・提供されているチャットBotの大半は、予め登録されたFAQの中から回答を選択し、質問者に提示するという形式のものである。従って、「質問と回答」というかたちで登録されてない、あるいは登録が難しい問い合わせには回答できない。例えば、「今日の天気は?」といった単純な質問であっても、答えが変動するような質問に対しては、チャットBotのシステム単独では回答することができない。

 当社では、クライアントからチャットBot構築のご相談を頂いた場合、その効果予測のため、先ず初めに【図表1】の区分でお客様からの問い合わせを分類する。その区分について解説していこう。

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【図表1】

区分①『FAQの参照により回答できる定型的な問い合わせへの対応』
この区分に関しては、特に解説は不要であろう。この区分のお客様対応は、チャットBotなどによる対応自動化への移行が容易である。例えば、「店舗の住所や営業時間のい合わせ」、「商品情報や定価に関する問い合わせ」などがこれに該当する。

区分②『他のシステムの情報を参照して回答する対応や情報処理の依頼』
この区分は、チャットBot単独では対応の自動化が不可能で、他のシステムとの連携により自動化が可能となる領域である。例えば、「明日の夜、お店の予約はできます
か?」といった問い合わせへの回答もこれに該当する。特に難しい問い合わせではないが、自動で回答するためには、予約管理システムとチャットBotとのシステム連携が必要となる。
他の例として、お客様からの「注文内容の確認」、「登録していた住所の変更依頼」などへの対応も同様である。チャットBotで簡単に自動化できそうに思えるが、それぞれチャットBotと注文管理システム、顧客管理システムとの連携機能を構築しなければ自動化が実現しない。

区分③「お客様個別に説明を行う非定型対応/専門対応・複雑な処理等」
この区分については、自動化が困難なことは容易に想像がつくであろう。「VIP顧客からの問い合わせや苦情への対応」、「医療・法律など専門性が高い分野での相談対応」などがこれに該当する。臨機応変な対応や推察力・判断力を必要とするような対応は、自動化が困難な領域である。

この区分でお客様からの問い合わせを分類した結果、仮に区分①、②、③の比率がそれぞれ30%、40%、30%だったとする。チャットBotを他のシステムと連携させず単独で構築した場合、自動化されるお客様対応は最大で30%ということになる。

問い合わせ内容の傾向とチャットBot導入の適性

 上記のような「お客様対応の内容区分」の他にも、チャットBot導入の工数や効果に影響する要素はいくつかある。その一つが、コールセンターに入る「お客様からの問い合わせ内容の傾向」である。

crm.chat1203.png

【図表2】

 【図表2】は、コールセンターに入るお客様からの問い合わせの内容を、多いものから降順に左から並べたグラフである。上段のグラフは、問い合わせの内容が比較的偏ったセンターのモデルである。問い合わせ内容の上位100種で、問い合わせ全体の50%をカバーし、上位300種で80%をカバーするということを示している。一方、下段のグラフのケースは、上位400種で50%、900種でようやく80%である。
 上段の“上位集中型”のコールセンターでチャットBotを導入する場合、問い合わせ内容の上位300種をFAQにすれば、全問い合わせの80%をカバーできる。一方、下段の“分散型”のコールセンターでは、同じように80%をカバーするためには、3倍の900種のFAQを構築しなければならない。このような“分散型”のコールセンターは、膨大なFAQを構築し、それを頻繁にメンテナンスしていかなければ問い合わせへのカバー率が上がらないため、チャットBotの導入には不向きだと言える。

「チャットBot構築」を“期待はずれのプロジェクト”にしないために

 前述の二つの考え方(「自動化の観点から見たお客様対応の分類」と「上位集中型or分散型の問い合わせ傾向の違い」)は、説明されれば簡単に理解できる内容だと思う。しかし、チャットBot導入後に「期待はずれだった」という評価になってしまっているプロジェクトは、こうした事前の現状分析を行なわずに構築してしまったケースが多い。crm.phone1203.jpg もう一点、見落とされがちなことがある。例えば、問い合わせ件数の80%をカバーするFAQを作成し、チャットBotを構築しても、それたけでコールセンターへの問い合わせが削減される訳ではない。例えば、お客様がチャットBotの存在とその在り処を認知していなければ、どんなに優れたチャットBotを構築してもコールセンターへの問い合わせは減少しない。お客様対応自動化の推進に必要なことは、回答率が高いチャットBotを構築することだけではない。お客様からの問い合わせの導線をコールセンターからチャットBot(Web)にシフトさせていくための施策も同じように重要となる。
 当社では、「チャットBot構築」を“期待はずれのプロジェクト”にしないために、『Q&A自動化ソリューション』という名称で、顧客対応の自動化に関するソリューションを提供している。『Q&A自動化ソリューション』は、前述の現状分析から始まり、チャットBotの「設計・構築・運用・効果測定・改善」という一連のP-D-C-Aサイクルをサービスラインナップ化して提供している。
 そこで次稿では、『Q&A自動化ソリューション』の説明を通じて、お客様対応の自動化やチャットBot構築のポイントについて、更に具体的に説明していきたい。

AIにより企業とお客様とのコミュニケーションはどう変わっていくか

西脇 紀男 Norio Nishiwaki

1993年大手コールセンターベンダーに入社。経営企画、営業企画、CRMコンサルティング部門の部門長を務める。
2010年キューアンドエーグループに入社。経営企画、マーケティングソリューション事業などの部門長を経て、2017年から2019年はコンタクトセンター事業でのAI活用を推進するAI事業戦略本部の本部長に。
現職でも引き続き、AI活用やオムニチャネル対応など次世代型コンタクトセンターのモデル構築、事業化に取り組んでいる。
立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科修了 経営管理学修士(MBA)

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