専門家コラムColumn

Season1「チャットBot」編(5)『Q&A自動化ソリューション』

2020.03.03

 前回(Season1第4回)は、チャットBotで対応できること・できないこと、チャットBotの導入に適したコールセンターなどについて解説した。本稿では、前回の予告どおり、当社が一昨年の5月に提供開始したサービスパッケージ『Q&A自動化ソリューション』について説明したい。この説明を通じて、チャットのBot構築・運用の流れや要点について、更に具体的に解説していきたい。

「お客様対応自動化」の手順

QA_SL.png

【図表1】『Q&A自動化ソリューション』のサービス構成

 当社が提供する『Q&A自動化ソリューション』は、「事前診断」➡「構築」「運用」「検証」「拡大」という流れに沿って、【図表1】のようなサービス構成となっている。

 

① 事前診断

 お客様対応の自動化に向けては、いきなりチャットBotの構築に着手するのではなく、事前診断(現状分析)から着手することをお薦めしたい。現状分析の主な内容は、前回(Season1第4回)で説明した「“自動化”の観点から見たお客様対応の分類」と「問い合わせ内容の傾向とチャットBot導入の適性」に関する分析である。具体的な内容は前稿をご参照いただきたい。

 これらの現状分析により、チャットBotによって自動化が可能な問い合わせの比率とFAQ(想定質問と回答の組み合わせ)の構築にかかる工数を想定する。合わせて、問い合わせの内容の傾向分析により、適したチャットBotのタイプ選定と具体的なツールの候補選定を行なう。これらの材料が揃えば、チャットBotの構築・運用にかかる費用の概算を試算できる。この試算をもとに、投資対効果の目処を立てていく。
この一連のプロセスをコンサルティングサービスとして提供するのが【図表1】の上段中央に記載の「導入コンサルティング」である。

 

② 構築

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 構築フェーズの作業の大半は、FAQナレッジの構築・整備である。FAQの構築は、選択したチャットBotのツールによって作業の内容が大きく異なる。チャットBotは、【図表2】のように「機械学習型」、「ルールベース型」に大別され、ルールベース型は更に「一問一答型」と「シナリオ型」に大別される。最近では、これらの利点を組み合わせた「複合型」が増えて来ている。チャットBotの種類とそれぞれの特性については、本ブログのSeason1第2回Season1第3回で詳しく解説しているので、そちらをご参照いただきたい。

【図表2】

 

 誤解されがちだが、お客様対応自動化は、チャットBotの構築が唯一の手段という訳ではない。自社のホームページ上で既に設置してあるFAQのコーナー(FAQサイト)を整備・拡充するだけでも、お客様の問い合わせに対する自己解決率が向上する場合もある。【図表1】の上段右側に「FAQサイトソリューション」というサービスが記載されているのはそのためである。お客様対応自動化の推進に関しては、チャットBotとFAQサイトとの両方のチャネルを構築・整備していくことが有効なアプローチである。

 この「①事前診断」と「②構築」までが、『Q&A自動化ソリューション』のレギュラーサービスのメニューである。

③ 運用

 チャットBotの運用管理機能から、ユーザーとの問い合わせ対応の履歴や、回答できなかったエラーの記録などが抽出できる。これらのデータをもとに、問い合わせへの回答率やユーザーの満足度向上に向けて、様々なチューニング作業を行なうのがチャットBotの運用作業である。具体的には、新たなFAQの登録や同じ意味で違う言い回しの質問を追加登録するなどの「FAQデータの追加・修正」、シナリオ型での「質問シナリオの追加・修正」、「ユーザーインターフェイスの改善」などである。
 クライアントの中には、チャットBotの構築だけを委託し運用は自社で行なうという企業もあるため、『Q&A自動化ソリューション』では「運用」はオプションサービスとしている。
また、チャットBotで回答できない問い合わせに対するエスカレーション機能も整備しておく必要がある。具体的には、人によるチャット対応やコールセンターへの誘導である。『Q&A自動化ソリューション』では、こうした人によるエスカレーション対応もオプションサービスとして対応している。

④ 検証

 チャットBotの運用を開始して一定期間経過後、導入前に想定した投資対効果の見通しや、回答率・ユーザー満足度などの数値目標を検証していく必要がある。検証作業は、チャットBotへのコンタクト数、質問への回答率、ユーザー満足度など、チャットBotの管理機能から抽出するデータの分析が中心となる。
ユーザーの立場からすると、1~2回利用して求めている回答が得られなければ、“使えないツール”という評価となってしまい、二度と使わなくなってしまう。多くのユーザーからそういった印象を持たれてしまうと、チャットBotのブランドを回復することが非常に困難となってしまう。
チャットBotの管理機能から、複数回コンタクトしているユーザー数のデータを抽出できるものも多い。コンタクト総数に対する複数回利用ユーザー数の傾向分析などから、ユーザーの定着度合いや離反度合いを確認していくことは重要である。定期的な検証の実施をお勧めしたい。

⑤ 拡大

 前稿(Season1第4回)でも説明したように、チャットBot単体で自動対応できる問い合わせの範囲は限定されている。例えば、「明日の夜、お店の予約はできますか?」といった簡単な問い合わせへの回答も、チャットBotと予約管理システムを連携させなければ自動対応は実現しない。
逆に言えば、関連するシステムとの連携ができれば、チャットBotで自動対応できる範囲が飛躍的に拡大する。ユーザーにとっては利便性が向上し、企業側も対応工数が削減されることになり、双方にメリットがある取り組みとなる。チャットBot構築後のセカンドステップとして、是非検討していきたい取り組みである。
『Q&A自動化ソリューション』でも、RPA(Robotic Process Automation)などを活用したチャットBotの応対領域拡大をオプションサービスとして受託している。

 以上が、当社が提供する『Q&A自動化ソリューション』の「事前診断」→「構築」→「運用」→「検証」→「拡大」という一連のサービスの流れとなる。若干、当社のサービス宣伝の要素はあったが、本稿の説明を通じて、チャットBotの構築や運用の流れ、留意点などについて説明した。参考になる点があったならば幸いである。
 「コールセンターの仕事は、AIに取って代られるのか」というテーマに関して、これまで5回に渡り、チャットBotによる企業のお客様対応自動化の動向について説明してきた。「チャット編」は今回で終わりとしたい。 次回からは、Season2として“この2~3年で予測される企業とお客様とのコミュニケーションの変化”について、筆者なりの見解を説明していきたい。

AIにより企業とお客様とのコミュニケーションはどう変わっていくか

西脇 紀男 Norio Nishiwaki

1993年大手コールセンターベンダーに入社。経営企画、営業企画、CRMコンサルティング部門の部門長を務める。
2010年キューアンドエーグループに入社。経営企画、マーケティングソリューション事業などの部門長を経て、2017年から2019年はコンタクトセンター事業でのAI活用を推進するAI事業戦略本部の本部長に。
現職でも引き続き、AI活用やオムニチャネル対応など次世代型コンタクトセンターのモデル構築、事業化に取り組んでいる。
立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科修了 経営管理学修士(MBA)

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