専門家コラムColumn

Season2(6)AIを活用した企業のお客様対応の今後について - 2

2021.09.13

 『AIにより企業と顧客とのコミュニケーションはどう変わっていくか』というテーマで約2年間、筆者の見解やチャットBot、AI電話自動応答などの現状について説明してきました。

aiclerk.png今回はその最終回となります。3月に当社がリリースしたサービスの新ブランド『AIクラーク』の説明を通じ、AIを活用した企業のお客様対応について総括したいと思います。

 【図表1】は、『AIクラーク』の全体像を表したものです。従来型のコンタクトセンターでは、お客様からの「定型的な問い合わせ」や「簡易的な手続き」への応対も全てオペレーター(人)が対応していました。『AIクラーク』では、先ずはこの「定型的な問い合わせや、簡易的な手続きへの応対」をターゲットに自動化に取り組んでいきます。crm1.png

                       【図表1】『AIクラーク』の全体像

 『AIクラーク』は、当社がこれまでリリースしてきたAIを活用した3つのサービス、『AI FAQ構築サービス』『Q&A自動化ソリューション』『AI電話自動応答サービス』により構成されています。
 最初に、コンタクトセンターに蓄積されたお客様対応の履歴情報を素材として、『AI FAQ構築サービス』により、FAQ(よくある問い合わせと回答の組み合わせの)を構築していきます。この作業は、「AI」(文書解析AI)と「人」の作業との組み合わせで行います。最初に人が作業を行い、AIが解析し易い形式に素材データを加工します。その加工した素材データをAIが解析し、「質問」と「回答」を抽出します。最後にまた人がそれを確認・修正し、FAQとして仕上げます。『AI FAQ構築サービス』の詳細は、前々回のSeason2(4)をご参照下さい。
 そして、そしてそのFAQナレッジを活用し、チャットBotやAI電話自動応答により、定型的・簡易的なお客様対応から自動化を行います。この作業を定期的に繰り返すことによってFAQを拡充し、AIによる自動応答の領域を拡大していきます。
 更に、通信販売の注文受付など、高い正確性が求められる受付業務では、AIのみで受付を完結させず、バックオフィスでオペレーター(人)が情報の確認・補正作業をおこないます。FAQ構築と同様に、「AI」と「人」による作業との組み合わせにより、受付した情報の精度を高めていきます。
AIクラーク』のクラーク(clerk)は、英語で「事務員、フロント係」などの意味を持ちます。文書解析作業の前捌きやお客様とのフロント対応を「AI」が行い、「人」がそれをバックオフィスで確認・補正するという一連のサービスのモデルを『AIクラーク』 という名称で表しています。

 そろそろ、企業のお客様対応に関する「この2~3年で予測される変化」について総括していきたいと思います。前段で『AIクラーク』の説明をしたのは、『AIクラーク』のサービス構成やコンセプトの中にその要素が盛り込まれているからです。予測される「変化」について二つ説明したいと思います。

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 一つ目として、AIの得意領域を理解し、「人」の作業の補助ツールとしての「AI」の活用が定着していくと予測しています。少し前までは、いわゆる“AIブーム”といった状況で、AIの能力に過剰な期待が抱かれていました。それが徐々に補正され、AIの特性に関する正しい理解がいくらか進んだように思います。今後は、定型的・簡易的な応対や作業を「AI」にシフトし、「人」は人でなければできない業務にシフトしていくという役割分担が進んでいくと考えています。 前回のSeason2(5) でも説明したように、仮にこの2~3年でそういった適切な活用が浸透すれば、「自動応答ツール」の活用ケースが拡大し、ユーザー側もその利用に慣れ、更に普及が進むという循環に入っていく可能性もあるのではないかと考えています。

 「変化」の二つ目として、企業で「お客様対応」に従事するスタッフの働き方が変わっていくのではないかと予測しています。再び、『AIクラーク』の説明に戻ります。『AIクラーク』は、ポストコロナ時代の“ニューノーマル”を意識し、お客様対応に従事するスタッフの「働き方の変革」もコンセプトとしています。
crm3.jpg 従来、お客様対応を行うコンタクトセンターでは、オペレーターがセンターに出勤し、リアルタイムでお客様と対話することが必要でした。

そのため、お客様からの電話の繁忙・閑散に合わせた運用体制のコントロールが課題となっていました。また、お客様からのクレーム対応などによる心理的ストレスから、短期間で離職するスタッフが多いといった課題もありました。

 『AIクラーク』は、お客様とのフロント対応は「AI」が行い、「人」がバックオフィスで情報の確認・補正を行うモデルとなっています。バックオフィスで情報の確認・補正作業は、必ずしもリアルタイムで行う必要が無いものも多いため、電話の繁忙・閑散に合わせた運用体制のコントロールという課題の低減が期待されます。また、オペレーターはお客様とは直接対話しないモデルのため、クレーム対応での心理的ストレスなどによる離職といった問題は解消されます。更に次のステップでは、『ニューノーマル』を見据え、バックオフィスでの情報確認・補正作業を在宅やテレワークで行えるような体制づくりも計画しています。

 このように、フロント対応や前捌きの作業を「AI」にシフトすることにより、「人」が対応する作業や場面が変化し、「お客様対応」に従事するスタッフの働き方の変革が進んでいくと考えています。

 『AIにより企業と顧客とのコミュニケーションはどう変わっていくか』というテーマで約2年間、合計12回に渡り、筆者の見解やチャットBot、AI電話自動応答などの現状について、情報を発信してきました。お読み頂いた方には、感謝を申し上げます。

 本稿で説明した「二つの予測される変化」については、半分は“予測”で、半分は「そうなれば良いな」と筆者が考えている“あるべき姿”でもあります。その“あるべき姿”が少しでも実現するよう、引き続き、微力ながら尽力していきたいと考えています。

 

AIにより企業とお客様とのコミュニケーションはどう変わっていくか

西脇 紀男 Norio Nishiwaki

1993年大手コールセンターベンダーに入社。経営企画、営業企画、CRMコンサルティング部門の部門長を務める。
2010年キューアンドエーグループに入社。経営企画、マーケティングソリューション事業などの部門長を経て、2017年から2019年はコンタクトセンター事業でのAI活用を推進するAI事業戦略本部の本部長に。
現職でも引き続き、AI活用やオムニチャネル対応など次世代型コンタクトセンターのモデル構築、事業化に取り組んでいる。
立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科修了 経営管理学修士(MBA)

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